建築 雑コラム 12
Architecture The s Column
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無機質の材料
近代建築の素材の代表はコンクリート、鉄、ガラスと言われます、すべて無機質の材料です。
現在の時代の先端を旗を持て走る建築家はほとんど無機質な材料を使って建築を構成しています。
先端を目指して走りたい若き建築家はこの傾向を無視する事は出来ないと思います。(2013.2.6)
これを逆手に取ったのが、隈研吾氏で木を良く使いますが、10年経った建物を見ると劣化が激しく、マスコミにのったファッション建築
の様に思います。
まずは
コンクリート (こんくりーと)
から、コンクリートは砂(5mm以下の細骨材)と小石、砕石(5mm以上の粗骨材)をセメントで接着して固まらせた「泥」です。
コンクリート断面
セメント自体はローマ時代からあってコロッセオはレンガをセメントで接着してつくられている。
(コロッセオは外壁に大理石が使われていたが後に剥がされて、バチカン宮殿や、サンピエトロ大寺院の外壁に使われたそうです。)(2013.2.7)
近代の建築でこのコンクリートが重要な材料になったのは19世紀に鉄筋とコンクリートの組み合わせがされて、
鉄筋の引張力と、コンクリートの圧縮力の組み合わせと、熱膨張率が近い事によっての同一化が可能であった事が大きい。(2013.2.8)
また、コンクリートはアルカリ性で、鉄が酸化して錆びるのを遅らせる効果もこの組み合わせの特徴になっている。
コンクリート打設風景 (2013.2.9)
鉄筋とコンクリートのコンビで機能する材料なのでそれを活かすための決まり事を守らないと効果が出ない。
例えば、鉄筋の外側のコンクリートの厚みを「かぶり」と言いこれが少ないと鉄筋は錆び易くなる。
また、鉄筋と鉄筋のつながる部分では一定の長さを以てコンクリートと一体化できるこの長さを「定尺」というがこれが少ないと力がうまく伝わらなくなる。
(2013.2.10)
鉄筋コンクリートの建物は構造計算を基にそれぞれの部分の鉄筋の引張強度を鉄筋の太さと本数で決め、コンクリートの圧縮強度と一体化される。
コンクリート建築は建物個別に計算された建物全体が一体の材料と考られる。そういう意味では近代的な材料である。
しかし現場は木製の枠の中に、鉄筋を編み込んで、コンクリートを流し込み、乾いたら枠を外す。という原始的な工法という二面性を持つ。
(2013.2.11)
セメントを接着剤として硬化させるには水と反応させる必要があるので、水を加えます。これを水和反応といいます。
水を多く入れるとコンクリートは柔らかくなり型枠の中に流れ込み易くなりますが、強度も落ちて、クラックが入りやすくなります。(2013.2.12)
水和反応に最低限必要な水以外の水は、乾燥すると空隙や、縮みの原因になりますので必要以外の水は少ない方が良いのですが、
施工現場では打込みにくくなりますので柔らかい水の多く入ったコンクリートで施工したいと言われます。
このジレンマをどの様に対応するかが良いコンクリートを作るコツになります。(2013.2.13)
鉄筋コンクリートの建物と言うと安藤忠雄の作品が有名ですが、私はむしろ高速道路や、ダムなどで使われるコンクリートに美を感じます。
安藤忠雄 住吉の長屋 首都高コンクリート橋下部 黒四ダム(2013.2.14)
安藤忠雄のコンクリートは型枠の合板にペンキを塗ってツルッとさせたのが特徴でコンクリートの表現の特殊解と考えられる。
(一時期安藤さんをまねて内外打ち放しや、はたまた、打ち放し柄のビニールクロスまで出て、バカか!と思った時期もありました)(2013.2.15)
ツルッとしたコンクリートでは土木の鉄板を使った型枠の柱脚などは安藤さんのコンクリート以上に綺麗です。
(安藤さんの建築はコンクリート以外で評価すべきと思います!)(2013.2.16)
建築のコンクリートではあまり感動したことはありませんが、丹下健三の吊屋根で有名な代々木体育館の下部のコンクリートは素晴らしいと思います。
代々木第一体育館 代々木第二体育館(2013.2.17)
この丹下さんのコンクリート表現に近い、大胆な表現をコンクリートでしている最近の建築家でザハ・ハデッドがいます。
彼女は新国立競技場のコンペで最優秀賞を取りました。審査委員長は安藤忠雄です。(2013.2.18)
ザハ・ハディッド アゼルバイジャン ヘイダル・アリエフ文化センター
新国立競技場 最優秀案
どの様な建物になるか楽しみです。(2013.2.19)
鉄 (てつ、スチール)
鉄と人間との歴史は古く3000年以上前から使われていたと言われる。(2013.2.20)
建築の材料として使われるようになったのは、産業革命以降で1851年のロンドン万博でのジョセフ・パックストンのクリスタルパレスは
鉄の建築の幕開けとして有名です。
ジョセフ・パックストンのクリスタルパレス(2013.2.21)
鉄と一般的に言いますが、鉄は英語では IRON (アイロン) で
私たちが良く使う STEEL (スチール)は 鋼鉄で鉄に炭素や他の金属を配合した合金のことを言います。
日本では「はがね」と呼ばれる事もあります。(2013.2.22)
鉄に炭素を加えると固くなります。一般的に建築に使われるのは炭素鋼と言われるものです。
建築で良く使われるのはSS400(板状の物),STKR400(コラム、角型鋼管),SSC400(H鋼、L鋼(アングル)など加工されたもの)などです
末尾の400の数字は引張強度 400N/mm2 以上 で 性能品質を規定したものです。(2013.2.23)
炭素鋼以上に炭素の含有量を増すと、もっと固くなりますが、粘りがなくもろくなります。これを鋳鉄(ちゅうてつ)といい、日本では「鋳物、いもの」と言われます。(2013.2.24)
建築で鉄の建物の代表はミース・ファンデル・ローエ の ファンファース邸が有名です。
ミース・ファンデル・ローエ の ファンファース邸
柱と梁のラーメン構造で表面に出して繊細に表現されています。(2013.2.25)
超高層のビルもガラスやパネルで覆われていますので構造自体は見えませんが、コンクリートより自重の軽い、鉄骨のラーメン構造で出来ています。
新宿 高層ビル群(2013.2.26)
鉄の特徴は引張力に優れている事ですから、ラーメン構造よりむしろ吊り橋の様な使い方が有効な材料なのですが
建築ではそのような使われ方はごく少数です。(2013.2.27)
本四架橋(2013.2.28)
引張力(いんちょうりょく、テンション)を上手く使った建築を二つ紹介します。
ノーマン・フォスター 香港銀行(2013.3.1)
最初は香港にあります、イギリスの建築家ノーマン・フォスターの香港銀行です。5層位ごとに床を吊った構造になってます。
橋のような構造ですので、床が少し揺れていました、建築でこの揺れは気にする人は多いのでは?と思いました。(2013.3.2)
次はパリにあります、ポンピドーセンターです。
この建物はイタリアの建築家レンゾ・ピアノとイギリスの建築家リチャード・ロジャースが共同でコンペを勝ち取った作品です。
ポンピドーセンター
私はこの鉄の使い方がとても好きです。(2013.3.3)
肘状に出した梁は鋳物で作ってあります。 構造を担当した、アラップの ピーター・ライスの貢献度が大きいと思います。
石の街 パリでは現在でも異質感がありますので、出来た時の異様さは格別だったと思われます。(2013.3.4)
パリにはもう一つ有名な鉄でできた建物があります。
エッフェル塔 エッフェル塔 柱脚部
1889年に出来ましたエッフェル塔です。 これもできた時は異様な建物だったと思います。(2013.3.5)
今と違い材料費が高く、人件費が安い時代でしたので、細い材料を構造的に有効に組み合わせ加工して(少し装飾も兼ねてますが)創られています。
現在は人件費が高いので材料が多くても加工手間のかからないように作ります。(2013.3.6)
名古屋高速道路 鉄骨ボックス梁 下部よりの見上げ(2013.3.7)
同じ鉄の使い方でもずいぶん違うのが分かってもらえるでしょうか?
あなたはどちらの鉄の使い方が好きですか?(2013.3.8)
ガラス (硝子、がらす)
鉄の所でも紹介したジョセフ・パックストンのクリスタルパレスはガラスの建築としても幕開けの作品となる。
コンクリート、鉄は構造材として使われるが、ガラスはコンクリート、鉄のラーメン構造で出来た開口部に嵌め込まれる材料として
現代建築に多く使われてきた。(2013.3.9)
ダブルスキンのガラスに覆われた伊東豊雄設計のせんだいメディアテーク(2013.3.10)
数少ない構造に使われたガラスを見つけました。
東京国際フォーラム前の地下鉄入口に構造材として使われたガラス。(2013.3.11)
ガラスは透明の物もありますが、色の付いたものもあります。また光のみを通して不透明な物もあります。
透明のガラスを建築用語でフロート板ガラスと言います。(2013.3.12)
透明ガラスは以前はガラス細工の様に吹き棒から吹いてビン状のものを切り開いて平らにした物を使っていました。
ですから、明治時代の建物のガラスはよく見ると外の風景が微妙に揺らいでいます。(2013.3.13)
今のガラスはこの様なひずみはありません、水銀のプールの上に溶けたガラスを流し浮かべて作るので完全にフラットになります。
そうです、浮かせて作るのでフロートガラスと言います。
透明フロート板ガラス(2013.3.14)
光のみ入れたい時には透明でない型ガラスや、すりガラスを使います。
型ガラス(2013.3.15)
また、鏡の様に反射するガラスを外壁に使う事もあります。
熱線反射ガラス(2013.3.16)
熱線反射ガラスといい、表面に金属酸化物を焼き付けて鏡の様になりますが
昼は屋外の方が明るいので屋外側が鏡の様になり、屋内からは屋外が見えるようになりますが、
夜は屋内、屋外が反対となり屋外からよく屋内は見えるようになりますので注意する必要があります。(2013.3.17)
また最近は部分的に視覚を調整できるガラス(視野選択ガラス)もあります。
視野選択ガラス(2013.3.18)
ガラスは開口部に付きますが、隣の建物が火事になった時普通のガラスは熱で割れてそこから延焼します。
そこで割れても崩れ落ちず延焼しにくい様になったガラスが網入りガラスです。皆さんもよく見かけると思います。(2013.3.19)
網入りガラス
クロスワイヤーと菱形ワイヤーの二種類あります、最近網を入れなくても防火性能のある防火ガラスも生産されていますが、まだ高価です。(2013.3.20)
またガラスとガラスの間にシールを挟み込んで防犯や、視覚調整などの用途に使える合わせガラスも開発されました。
合わせガラス
合わせガラスは、飛散防止や紫外線カットの効果もあるガラスです。(2013.3.21)
透明性、透光性、耐候性、などの長所を持つガラスですが、熱を伝えやすい性質があります。
また材料の厚みも薄いのでより熱が伝わりやすくなります。(2013.3.22)
冬の窓ガラスに多くの結露水を見つけられますが、これはガラスが他の壁以上に冷たくなっている証拠です。
裏返して言いますと、部屋の暖かい温度がガラス窓からどんどん逃げて行っている事になります。
この欠点を補う様にヨーロッパ、とくにドイツ、北欧で良く使われていたのですが、日本でも最近は良く使われるようになったガラスが複層ガラスです。
(2013.3.23)
複層ガラス(2013.3.24)
密封された中空層によって熱が伝わりにくくなります。
一枚のガラスの熱が逃げる量の約半分になります。
今後このガラスを使う事が一般的となると思います。(2013.3.25)
また、中間層を広く取ったり、LoW-Eガラスを使ったり、高断熱Low-E膜を設けたりといろんなタイプが開発されています、
その結果逃げる量もやく1/3までに減ってきました。(2013.3.26)
もっとすごいガラスも開発されています。それは複層真空ガラスと言います。
複層真空ガラス
このガラスですと熱の逃げる量が1/10までに減ります。(2013.3.27)
この様にガラスはここ数年進化してきていますが、一般的に使うには価格が問題となります。
エネルギー問題、低炭素社会への要求が高まり高性能のガラスが低価格となり一般的に使われる日も遠くはないと思います。(2013.3.28)
この進化によってガラスを使った新しい表現が期待されます。
ファサードがガラスの建物は最近多くなってきていますが、均一的で冷たい感じの建物が多いように思います。(2013.3.29)
ガラスの表面にシール模様を貼ってそのガラスを二重にして模様のハレーションを表現した建物が名古屋の中心部にあります。
ルイ・ヴィトン名古屋栄店 ハレーションを起こすガラスシール詳細
青木淳設計のルイ・ヴィトン名古屋栄店です。(2013.3.30)
近くに大林組の設計施工のオアシス21があります。屋根がガラスでこの屋根のガラスの上を歩く事が出来ます。
オアシス21(2013.3.31)
私が37年前に勤めていたLAND建築事務所(南青山、ヨックモックの前)の近くに最近建ちました
スイスの建築家ユニットのヘルツオーク・ド・ムーロン設計のプラダ青山店は新しいガラスの建物として注目しています。(2013.4.1)
プラダ青山店 プラダ青山店ガラス詳細(3013.4.2)
表面のフラットと、膨らんだ複層ガラス、またスクリーンのかかったガラスを織り交ぜて単調にならないよう工夫されています。
またこの建物は外壁廻りのこのひし形の網かごの様な構造になっています。
また、免震構造として地震力のひずみがガラスに影響されないように考えられています。(2013.4.3)
ガラスは変形による割れが起こらない様、地盤から躯体、躯体から外壁、外壁からサッシ、サッシからガラスと伝わる変形をそれぞれの納まりで
吸収して最終的にガラスが割れないように工夫されています。
伊東豊雄さんのせんだいメディアテークも、このプラダ青山店も免震構造でガラスに多くの変形がされないように工夫されている所が共通します。
(2013.4.4)
ガラスブロック (がらすぶろっく)
私の好きな建築家でピエール・シャローが居ます。彼のガラスの家は私が若い時期に憧れを持った作品です。
この建物が見たくてパリの街を半日探し続けましたが、見付けれませんでした。(2013.4.5)
インターネットで情報を最近は得る事が出来て場所は見付けれましたが、2か月以上前から見学予約が必要との事です。
ピエール・シャロー ガラスの家 ガラスの家 内部(2013.4.6)
ガラスの家と言いますが、実はガラスブロックを使った建物で1931年に建っています。
ピエール・シャーローは家具やインテリアのデザインを多くしていました。
私の処女作の荒古公会堂(1984年)もこの憧れもあってガラスブロックを使いました。ですからガラスブロックには私なりの思い入れがあります。
荒古公会堂 荒古公会堂 ホール(2013.4.7)
光を通し、ガラスより保温性があり、遮音性能がある材料です。
このガラスブロックは光を部屋内に均質に反射するタイプを使っていますので障子と同じ様な効果がでます。
光を意識できる材料の一つと思います。
(2013.4.8)
無機質の材料にはこの他に多くの金属があります、金属もそれぞれ特徴を持ちますが今回はここで材料に関する項目を打ち切る事にします。
(2013.4.9)
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