建築 雑コラム 13
Architecture The s Column
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「北欧、スエーデン、フィンランドの建築」
昨年スエーデンとフィンランドに行きグンナール・アスプルンド及びアルヴァ・アアルトの建築を中心に視察旅行しました。(2013.4.10)
まず北欧の国は意外に情報が少ないのですが、個人所得も高ランキングの国が多く、
また社会制度も進んで特に福祉では世界の先端を行く国ばかりです。
最近では環境を重視して、ドイツと並び世界の最先端を行く国がスエーデンです。(2013.4.11)
また幸福度世界一としてデンマークの名前も見る事があります。
スエーデン、ストックホルム街中の通勤自転車(2013.4.13)
その反対にスエーデン、ノルウェー、フィンランド、デンマークの北欧の国は税金が高い事でも有名です。
旅行を終えて感じたのは、アメリカと違う、成熟した社会です。(2013.4.14)
アメリカは資本主義が成熟した社会ですが、私は民主主義が発達した社会とは思いませんし、まして平等社会では全くありません。
北欧は民主主義が発達した社会を感じました。また、環境に適応した21世紀を感じる臭いがしました。
ストックホルム、ダウンタウン運河(2013.4.15)
今後日本が進む選択肢として北欧の社会も十分参考にする必要があると思います。
しかし、なぜ北欧に関する情報が少ないのか疑問を持ちます。
ストックホルム 住宅地(2013.4.16)
旅行中のホテルや、スーパーでの買い物のレシートを見ると消費税は交通費、書籍でで6%、食料品は12%と日本で聞いた25%より
少ないので興味を持って帰国後調べてみました。(2013.4.17)
日本は一律現在5%ですが、スエーデンは生活に必要な医療や、住いに関する土地購入、住宅建設費には消費税はかかりません。
食料品はやはり12%で一般より負担が少なくなっています。(2013.4.18)
私は建築に関係していますので住宅に消費税を掛けるのは反対です。
住いは消費するものではなく、生活の一部として絶えず構築されていくもので、それが残った物が街並みとなり、世界遺産となっていく文化的な物です。
ちなみに住宅に消費税を掛けていない国はスエーデンの他にもアメリカ、ドイツ、イギリスも非課税です。
「住宅に関する消費税を非課税にする運動」を建築家協会、建築事務所協会、建築士会が中心に起こすべきと思います。(2013.4.19)
スエーデンは税金は高いのですが税金で医療保険、介護保険も含まれています、医療費、教育費、老後の介護費は無料だそうです。
ある説を読みますと、日本の税金と医療保険費、介護保険費、生命保険費、教育費を足すとスエーデンの税金よりも高くなるそうです。
最近興味を持ってスエーデンの制度を勉強し始めています。
少し寄り道しましたが、建築に戻ります。(2013.4.20)
グンナール・アスプルンド
アスプルンドは1885年9月生まれのスエーデンの建築家です。
(2013.4.21)
ミース・ファン・デル・ローエが1886年生まれで、ル・コルビュジェが1887年生まれですからほぼ同世代になります。
日本の建築家では1891年生まれの村野藤吾が修業した事務所の渡辺節が1884年生まれになります。
ちなみにもう一人の巨匠フランク・ロイド・ライトは1867年生まれでル・コルビュジェより20歳も年上になります。
この後紹介するラグナル・エストベリが1866年7月生まれでライトと同世代になります。(2013.4.22)
アスプルンドの代表作は世界遺産になっている森の墓地です。
穏やかな丘を登るアプローチの 森の墓地(2013.4.23)
この墓地は死後に森に帰っていく北欧の伝統文化が根底にあります。
広大な森の敷地全体を計画するコンペディションで森林を残す計画が評価され森の中に森の火葬場、森の礼拝堂、復活の教会、ビジターセンター
などのアスプルンドの作品が点在します。(2013.4.24)
森の火葬場(2013.4.25)
アスプルンドは軸線をとてもうまく使う建築家で、
アスプルンドの軸線はなだらかにアップダウンしたり、シンメトリーを微妙に崩していたりと、人に馴染んでいます。(2013.4.26)
緩やかなアプローチを聖なる十字架を眺めながら登ると
広がったスペースの左にこの火葬場があって、右には蓮池越しに瞑想の丘があります。
瞑想の丘(2013.4.27)
この墓地は1915年から建設が始まり20世紀に創られたもので初めての世界遺産になっています。
また世界中の墓地に大きな影響を与え、日本では槇文彦が大分県中津市に設計した風の丘斎場や
槇文彦 風の丘斎場(2013.4.28)
伊東豊雄が岐阜県各務原市に設計した瞑想の森斎場はかなり影響を見る事が出来ます。
伊東豊雄 瞑想の森斎場(2013.4.29)
アスプルンドのこの森の火葬場の柱と梁の構成は正にモダニズム建築を象徴する存在ですが、
実はこのスレンダーな柱、鉄骨造の上に石が貼ってあります。
アスプルンドも村野藤吾と共通するプレゼンチストでした。(2013.4.30)
森の中にひっそりと寄棟でかわいい礼拝堂があります。森の礼拝堂です。
森の礼拝堂(2013.5.1)
森の礼拝堂内部
こじんまりした空間がとても良いスペースでした。(2013.5.2)
もう一つ森の中にイタリアの教会を意識させる、復活の教会があります。
復活の教会 礼拝堂後部側面からのエントランス (2013.5.3)
出ました!ギリシャから続くパルテノンの印籠!
私はこのパルテノンの印籠にあまり感心したことが無かったのですが、このオーダー(建築用語でオーダーと言う)はとても作りが緻密で
「いい仕事してますね!」と感心しました。(2013.5.4)
内部も、床にイタリア風モザイクタイルが使ってあって、礼拝堂のプロポーションもとても計算された、ぴったりの心地よさを感じました。(2013.5.5)
復活の教会 礼拝堂(2013.5.6)
墓地のもっと奥に行くと、全く趣の違うビジターセンターがあります。緑色のカラートタン葺きのモダンな建物です。
ビジターセンター ビジターセンター、エントランス(2013.5.7)
森の火葬場にはメインの礼拝堂と二つの小礼拝堂があります。
メインの礼拝堂 小礼拝堂(2013.5.8)
(森の墓地:案内: ストックホルム地下鉄緑ラインFarstaStand行き、Skogskyrkogargden駅一つだけの改札出て右折徒歩3分右に森の墓地エントランス、
毎週日曜日10:30より英語ガイドがあります、エントランススロープを登って広がった所にベンチとパンフレットBOXがある場所に集合です、
この英語ガイドに同行しないと建物の内部は見学できません)
日本語パンフレット 森の墓地公式ホームページ (2013.5.9)
ストックホルムにはアスプルンドのもう一つ代表的な作品があります。
ストックホルム市立図書館で、1928年に竣工した建物で5m位小高い敷地に建てられた軸線を持ったシンメトリーの建物で、
少しルドゥーの影響がある様に感じる建物です。(2013.5.10)
エントランスのスロープを上がり、入口を入るとやや狭く黒い壁に囲まれた階段を上ると、突然現れる空間に感動します。
狭く、または低い空間から突然広い空間へ展開する手法は、フランクロイドをはじめ多くの建築家が良く使う手法ですが分かっていても感激します。
アスプルンドの場合、スロープや、階段と高低差を使っているのも良い演出なのだと思います。(2013.5.11)
エントランススロープ、建物はオレンジ色です。
黒漆喰の壁に挟まれた少し狭い階段を上ると(2013.5.12)
円形の開架書庫のホール 書架の上は雲をイメージさせる白壁 ライティングも巧妙です(2013.5.13)
この壁全体を覆う開架書庫のパターンは安藤忠雄の司馬遼太郎記念館や多くの図書館に応用されています。
司馬遼太郎記念館(2013.5.14)
(ストックホルム市立図書館:案内:ストックホルム地下鉄 緑ラインRadmansgatan駅 何番出口か忘れましたが、出て道路迎え右)
アスプルンドは1914年(29歳)の年に森の墓地のコンペに同級生のテヴェレンツと共同で参加し、受賞し1940年までこの仕事にかかわった。
森の墓地の建物を見ると、モダンなフレームの森の火葬場や、イタリアを思い出す復活の礼拝堂、寄棟の北欧建築風の森の礼拝堂、
三角屋根のトタン葺のビジターセンターと、様々なスタイルの建築を創っている。(2013.5.16)
この後紹介するスエーデンの建築家ラグナール・エストベリ の影響もあると思われるが、コルビュジェや、ミースとは違ったモダニズムである。
1930年(45歳)の年にストックホルム博覧会が開催されアスプルンドは主任建築家に指名され威信をかけてモダニズムを表現する。(2013.5.17)
ストックホルム博覧会 ピロティ―とガラスの建築 ストックホルム博覧会レストラン内部
日本の縁側空間に影響を受けたピロティ―とガラスの建築で、ミースや、コルビュジェばりのモダン空間を作り上げるが、
エストベリらの国内建築家の批判も影響したのかこれ以降は、北欧の気候や風土、環境を意識した建築に変化する。(2013.5.18)
奇しくも環境を重視した21世紀に, モダニズム建築の忘れた, 「地域のアイデンティティーと環境」は見直されて、
アスプルンドの建築も見直される事になると思われます。(2013.5.19)
ラグナル・エストベリ
ラグナル・エストベリはスエーデンの建築家でナショナルロマンチズムの建築家として知られていますが、
日本では村野藤吾や、今井兼次、吉田鉄郎などが絶賛するストックホルム市庁舎の設計者として有名です。(2013.5.20)
ストックホルム市庁舎(2013.5.21)
見てみるまでどこが良いのか分かりませんでしたが、見てみましたらやはり良い建物でした。
まずこの建物はコンクリート造でも鉄骨造でもなくレンガ造です。レンガ造ですが1階の連続するアーチのピロティ―はかってなかった表現で
モダニズム建築のピロティ―へと繋がる要素を持っています。(2013.5.22)
ピロティ―部分(2013.5.23)
外観からすると一つのマッシブな建物と塔に見えるのですが真ん中に大きな中庭を持っていてそこからエントランスが取られています。
中庭からのエントランス(2013.5.24)
左側にノーベル賞の晩餐会で同じみな「青の間」(青くする予定であったが、煉瓦積の状態が良く名前のみとなった)がありその右側にエントランス中庭、右側に議場という構成で廻りを2階に空中回廊が回っています。
青の間 連続アーチで浮いた感じの煉瓦積(2013.5.25)
木造の小屋組みが表しとなっている議場(2013.5.26)
黄金の間 金色のモザイクタイルの壁画の間で湖の妖精が描かれている
ノーベル賞 舞踏会会場
何処が良かったか?単なる組積造ではなく近代に繋がる構成と細部に至るまで材料と、細工の破綻が無い空間にただただ圧倒される。(2013.5.27)
「いい仕事をしてますね!」を通り越して「良く作りました!」 の世界です。 モダン建築ではないのですが良い建築です。
村野藤吾先生の建築ボキャブラリーがあちらこちらにあって村野先生がこの建物に如何に影響を受けられたか見受けれます。(2013.5.28)
煉瓦積窓廻りの詳細(2013.5.29)
ストックホルム市庁舎:案内:ストックホルム駅より徒歩10分
館内見学 英語ガイド 中庭海側階段を上がった扉 受付 (この建物は館内見学は必見)
塔の向えの岸壁からドロットニングホルム宮殿(世界遺産)行のフェリーが出ます(このフェリーはお勧め)
宮殿はフランスの宮殿にはかないませんがフェリーで行く間に見るストックホルムの景色と合わせて良かったと思います。(2013.5.30)
ドロットロニングホルム宮殿
ドロットロニングホルム宮殿:案内:市庁舎塔側向えの埠頭より観光船にて30〜50分位?
(2013.5.31)