建築 雑コラム 10
Architecture The s Column
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タイル (陶磁器タイル)
愛知県常滑にINAXの「世界のタイル博物館」がある、
貴重な資料が展示されタイルを知るには是非見ておきたい博物館です。(2012.10.22)
タイル博物館に世界最古と言われるエジプトのタイルがある。
世界最古のエジプトのタイル(2012.10.23)
石造のピラミッドの地下通路の壁に嵌め込まれて使われていたそうです。
色は青みがかった緑の釉薬が使われている。(2012.10.24)
不老不死及び生命の再生をもたらす力のあると信じられ、
中国やインカでも、もてはやされた、正に翡翠(ヒスイ)の色である。(2012.10.25)
生命の再生を願った初期の階段ピラミットの地下の王の棺を囲むヒスイ色の壁
やはり中国、インカと何か関連するような使い方を連想するのは私だけであろうか?(2012.10.26)
7世紀にイスラム教が興ると、イスラム教は崇拝の対象を偶像化しないので(キリスト教も、
仏教も初期は同様であった)建物を神の国に表現したと言われている。(2012.10.27)
青を基調としたアラベスク模様などで埋め尽くされたタイルは正にタイルの歴史と同調する。
ブルーモスクのタイル(2012.10.28)
その後中国からの影響を受け、イタリア、スペインへと伝わってヨーロッパ、日本に伝播された。
タイルは耐久性、化学耐候性、防火性、防水性、に優れているので、外装材にも内装材にも使われる。(2012.10.29)
日本では関東大震災以後レンガ造はなくなり、鉄筋コンクリートの表面にレンガを薄くしたタイルをレンガ調に貼る事になる。
私は今から27年前KAK歯科で煉瓦タイルを初めて使いました、常滑の山宗製陶に単釜がまだあって釜の上下の温度差で
色が微妙に変わりそれを混ぜて使いました。 村野藤吾先生のタイルの使い方を関西の先生の建物を数件拝見して勉強しました。
(2012.10.30)
目地もモルタルに矢作川の荒い砂を入れて見込みも少なく積んだ様に表現しました。
レンガを意識した KAK歯科(2012.10.31)
タイルはこの様にレンガを意識した使用法と、仕上げ材として貼ったレンガとは全く別の物として使う使用法がある。
外壁材として貼った表現の MIY耳鼻科(2012.11.1)
基本的な性能として防水性で吸水率の違いで 土器質>陶器質>b器質>磁器質 の種類に分けられる。
土器質は800℃くらいの温度で焼かれた素焼きっぽい物が多く吸水率はかなり高い。(植木鉢の様な材質)
陶器質は1000℃くらいの温度で焼かれた吸水率の高い材料で釉薬がかかったものが多く、たたくと低い濁音がする。(2012.11.2)
b器質は1200℃くらいで焼かれたきめ細かく焼き締まった物で吸水率も小さく無釉の物が多いので表面も内部も同色である。外壁に良く使われる。
磁器質は1250度以上の高温で焼かれ、緻密で白く透明性があってたたくと高音の金属音がする。
吸水性はほとんどないので内部の水回りに良く使われる。(2012.11.3)
土器質タイル 陶器質タイル b器質タイル 磁器質タイル(2012.11.4)
一般的にたたくと低い音の物は吸水率が高く、高音の物は吸水率が低いと考えて良い。
高温で焼いたもの、大きいサイズの物ほどタイルは高くなる。(変形、縮みなどで歩留まりが悪くなるので)(2012.11.5)
常滑、多治見、土岐はタイルの産地で私は地産の建材と考え良く使ってきたが、最近その多くが海外よりの輸入品に切り替わりつつある。
とても寂しい気持ちがします。(2012.11.6)
タイルには目地があります。この目地の幅、素材、色によって同じタイルでも表情が変わります。
目地の奥行きを大きくすると立体感が出て影が出ます。(深目地)
また目地の奥行きを少なくすると積んだ感じが出ます。(浅目地)(2012.11.7)
深目地納まり 浅目地納まり(2012.11.8)
タイルは大きく分けて、 ザラッとしたものと ツルッとしたものに分かれる。
ザラッとしたものはレンガの文化に繋がり、土の素材感を残す。(2012.11.9)
レンガ調タイル 45二丁土ものタイル 45二丁土ものスクラッチタイル
土器質タイル、b器質タイルがこの範疇になるタイルです。
基本的には釉薬が掛かっていないので割っても中も同じ色の素材が出てきます。(2012.11.10)
ツルッとしたものは基本的に釉薬が掛かっていて大理石や石の文化に繋がる。
磁器300角タイル 磁器100角タイル (2012.11.11)
石に見せたタイルも多くある、起源は分からないが石のない日本では石が高いので似せたタイルとも考えれるが、
石の多いヨーロッパでは大理石は酸に弱く摩耗しやすいので浴室や台所回りには使えない、
そこでタイルで大理石に見えるものが作られたとも考えられる。(2012.11.12)
ロッソアジアーゴ風タイル 御影石風タイル
石も最近価格が下がりタイルに近づいて来ている、タイルも石のように固く品質が良く大きい物も出てきている。(2012.11.13)
モダニズムの建築では皆無となったタイルの使い方があります。それはモザイクタイルで絵や装飾をする方法で、
むしろタイルの歴史からするとイスラム文化と共に発展してきた多くの部分がこの部分に当たると思います。(2012.11.14)
イスラム文化とタイルに関してはまだ多く見ていませんのでここでは省かせてもらいます。
私が見たモザイクタイルの絵はイタリアでローマ時代の物でした。
ローマ時代のモザイクタイル壁画(2012.11.15)
タイルの特徴として色褪せしないことがあります。
塗料で描かれた絵は年数が経つと色あせしますが、タイルで焼かれたものは鉱物の色もあるのですが色褪せしにくいのです。(2012.11.16)
ローマ時代のこの壁画も表面は汚れて時代を感じますが表面の汚れを落とせば2000年の時代は感じなくなるでしょう。
ノーベル賞の授賞式をするストックホルム市庁舎に黄金の間があります。設計はラグナ―ル・エストベリで1923年竣工の建物で
モダニズム初期の時代の建物なのですがモザイクタイルで表現された湖の妖精を表した正に黄金の間で圧倒されました。(2012.11.17)
ストックホルム市庁舎 黄金の間(2012.11.18)
この建物は早稲田の建築家今井兼次が絶賛し、親友の村野藤吾も訪れています。
この建物には村野藤吾の建築ボキャブラリーの多くがあって村野先生がいかに影響を受けたか察する事が出来ます。(2012.11.19)
森五ビル 天井モザイクタイル 丸栄名古屋 外壁モザイクタイル壁画(2012.11.20)
村野藤吾の森五ビル ホールの天井モザイクタイル と 丸栄名古屋 外壁モザイクタイル壁画です。
村野先生までモザイクタイルの歴史が残っていたことが分かります。(2012.11.21)
瓦 (かわら)
タイルと同様土を焼いたものに瓦があります。
瓦は主に屋根に使われます。(2012.11.22)
屋根は建築の中では過酷な部分で夏の日中は部材温度が80℃を超えますし、冬の夜明けには氷点下10℃にもなります。
日本の降雨量はヨーロッパなどの十倍も多く雨が降ります。
また、火事になれば火の粉が飛んできて真っ先に屋根から燃え移ります。(2012.11.23)
これらの条件を満たす材料として瓦は長い歴史を掛け改良されて現在に至っています。
瓦は大きく分けて、中国から朝鮮そして日本へと伝わった東洋系の瓦と地中海を中心としたヨーロッパの西洋系瓦に分けられる。(2012.11.24)
三重県 関宿 の瓦屋根並み イタリア ピザの斜塔より見た瓦屋根並み(2012.11.25)
一般的に東洋系の瓦はいぶし瓦で代表されるように黒っぽい瓦が多く、西洋系瓦は素焼きの赤茶っぽい瓦が多いのですが
素焼きは吸水性が高く防水性に劣るので雨が十倍の気候に合わなく 黒っぽい防水性能の高いいぶし瓦が東洋の気候に合っているからです。
今回は東洋系瓦中心とします。(2012.11.26)
東洋系瓦は最初中国から始まりました。中国の瓦は基本的に ⌒ 型で ⌒ を互い違いに使っていましたが下の瓦が広くカーブも少なくなって
日本の唐招提寺や、法隆寺でも使われている本瓦葺きになってきます。
唐招提寺 本瓦葺き (2012.11.27)
その後日本では1674年に滋賀県大津三井寺の瓦職人がSの字にカーブする現在よく見る桟瓦を開発して屋根の重量が半分くらいになりました。
現在では日本の家と言えば屋根瓦と言われますが、その歴史はそんなに長くありません。(2012.11.28)
瓦屋根は長い間、神社仏閣と城のみで使われていました。
前に茅の部分でも書きましたが、江戸時代江戸の街の屋根は茅葺きか、板葺きが多く、大火事で街の多くが燃える事が何度もあり、
八代将軍吉宗の時に防火対策として瓦屋根にするようにおふれが出ました。(2012.11.29)
約三百年前でその後江戸から地方都市そして山村へと瓦屋根が広がってきたのが第二次大戦前くらいで
戦後に建築基準法で屋根材を不燃材とするように規制され現在に至ったと私は思っています。(2012.11.30)
日本の瓦は大きく分けて二つに分類できます。
一つはいぶし瓦でもう一つは三州瓦で代表される陶器瓦になります。
いぶし瓦 陶器瓦(2012.12.1)
いぶし瓦は
粘土が原材料で、以前は地瓦と言われた各地方で作られた瓦は田んぼの底に溜まった粘土を使っていたそうで
やはり農業中心の環境に支えられた材料でした。(前にも書きましたが、たたみ、小舞壁、瓦は田んぼを中心とする農業に支えられた材料でした)
現在は食器などと同じ様な採掘された粘土を使っているそうです。(12012.12.2)
1100℃位で焼かれ、最後に煙の穴を塞ぎ燻化して瓦の表面に炭素膜を作る製法です。
食器や置物などの陶器でも最後に穴を塞いで還元すると真っ黒な陶器が出来ますので同じ製法と思います。
いぶし瓦はきめが細かく均質なので陶器瓦よりたたくと高い音が出ます。(2012.12.3)
陶器瓦・三州瓦・釉薬瓦
いぶし瓦と同様原材料は粘土ですがその上に釉薬を塗って焼きます、最後まで酸素を供給して焼き終えます。
釉薬によっていろんな色の瓦になりますが素地は素焼きの茶色の素材です。(2012.12.4)
20年ほど前に現場でいぶし瓦と釉薬瓦の吸水テストを個人的にしました。
二枚の瓦を水平に並べてスプーン一杯の水をそれぞれに載せ無くなる時間を計りました。
何と釉薬瓦は30秒以内23秒、いぶし瓦が3分程度でした。(2012.12.4)
釉薬瓦は表面の釉薬が寒暖の熱によって小ひびが入ると素焼きの素材は水を吸いやすい事を知りました。
ちなみに瓦の吸水率はJIS規格で12%以下となっています。b器質タイルの5%以下に比べ倍以上水を吸う材料ということです。(2012.12.5)
瓦は吸水率が高いので寒冷地では凍結して瓦が割れるので、このような地域ではあまり使われません。
ゆっくり吸水する以前に出来るだけ早く雨を流す必要が出てきますので、瓦屋根を使う時は屋根勾配が4寸以上必要となります。
3寸勾配で納める時はその下の防水処理をしっかりする必要があります。
私より上の世代の建築家で瓦屋根の勾配を3寸勾配で納める方が多く見えました、シャープに見え見慣れない勾配が斬新に見えましたが。
無理をしていますので建物の寿命からは私は勧められません。瓦にあった勾配でデザインしたいと私は思います。(2012.12.6)
この吸水しやすい性能を上手く使ったのは琉球の瓦で、素焼きに近いのですが水分を吸った瓦はその水分を乾かすのに気化熱を奪いますから
涼しくなるのだそうです。(2012.12.7)
竹富島 瓦屋根(2012.12.8)
竹富島の民家に泊まった事がありますが、竹富島は時間の流れが違う世界のような感じがしました。
素焼きの瓦の下にはサンゴの残骸の砂が竹で編んだ下地の上にあり良く乾く作りでしたので気化熱も奪うこともできるのでしょう。(2012.12.9)
瓦の葺き方は以前は地板の上に防水層の代わりとして杉の皮を敷きその上に土を載せ瓦を葺いていましたが、
関東大震災で多くの瓦屋根の家が重さで倒壊しましたので
土を載せるのをやめて掛け桟と言って木の桟木を打ってそれに瓦を釘止する工法に変わりました。(2012.12.10)
(関東では瓦屋根を嫌って鉄板の瓦棒の屋根が多いのも関東大地震以降の傾向です)
その後杉皮はアスファルトやゴム系の防水ルーフィングに変わり、現在は透湿効果のあるルーフィングとなっています。(2012.12.11)
最近は瓦が桟木に取り付いているのですが、桟木はルーフィングの上で湿度が高く腐りやすい環境にありますが
一般的にこの材料を注意して選定されていません。エゾ松とか米栂などが使われ10年もすれば腐って無くなっているのでは?と心配です。(2012.12.12)
桟掛け瓦(瓦の隙間から入った雨は防水紙を伝うが木の桟で止まり桟を腐らせる)
桟木が腐った状態で地震になると瓦が屋根から雪崩の如く滑り落ちてきますので大変危険です。
桟木は腐りに強い桧やヒバを選択するようお勧めします。また桟木の底も水の抜ける工夫が必要と思います。(2012.12.13)
その他の最近の瓦
最近はシンプルな屋根を求める事が多くなり瓦も止水の工夫を凝らして、出来るだけ平らにデザインされたものが良く使われます。
一般的には平瓦(ひらがわら)と呼ばれて使われますが、重ねの納まりによって止水されるよう工夫されていますがメーカー事で仕様が違うので
良く注意して選択しないと漏れやすい屋根になります。(多くはルーフィングで止水されているケースが多いと思いますが)
平瓦(2012.12.14)
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